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TelegramによるHuioneとXinbiの追放は、「保証サービス」の業界地図をどう塗り替えたか?

2025年09月22日

2025年5月13日、メッセージングアプリTelegramは、カンボジアに拠点を置くHuione Group(フイワン・グループ)の保証サービスおよび、競合であるXinbi Guarantee(シンビ・ギャランティ)に関連するチャンネルを一斉に削除しました。この動きは、米国財務省金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)がHuione Groupを「主要な資金洗浄懸念金融機関」に指定したことを受けたものです。

この「粛清」以降、サイバー犯罪などに利用される非合法な保証サービスのエコシステムは、大きな混乱に陥っています。かつての巨大プレイヤーであったHuioneが法執行機関の圧力に適応しようと姿を変える中、その隙を突いて他のサービスが市場シェアを奪おうと動き出しています。

本記事では、ブロックチェーン分析とOSINT(公開情報調査)を駆使し、この激動の裏で何が起きているのか、Huione Groupとその関連ネットワーク、そして競合サービスの最新動向を解き明かします。

主要なポイント

  • 逆説的な取引増:
    Telegramからの追放後、Huioneの決済サービス「Huione Pay」の取引量は50%増加しました。これは、Huioneを利用していたベンダー(販売者)が代替サービス「Tudou Guarantee」へ移行しつつも、その資金受け皿としてHuione Payを使い続けているためです。
  • Xinbiの躍進:
    Huioneとは対照的に、Xinbi GuaranteeはTelegramへ迅速に復帰し、1日あたりの資金流入額が90%急増。市場の空白を埋める形で急速にその存在感を高めています。
  • HuioneとTudouの融合:
    Huione Guaranteeは、実質的にTudou Guaranteeと合併したか、Tudouを隠れ蓑にして運営を継続している可能性が濃厚です。オンチェーン分析(ブロックチェーン上の取引分析)により、かつてのHuioneのベンダーが、同じウォレットインフラを使いながらTudouで活動していることが判明しました。
  • Tudouの急成長:
    Huioneが表向きのサービス停止を発表して以降、Tudouの1日あたりの入金取引量は約70倍に増加。Huioneからの主要な乗り換え先となっています。
  • 一体化したインフラ:
    Huione PayとHuione Guaranteeはインフラを共有しており、両サービス間の直接的な資金移動も確認されています。これは、両者が密接に連携して運営されていることを示す明確な証拠です。

巨大金融コングロマリット「Huione Group」とは何か?

2014年に設立されたHuione Group(フイワン・グループ)は、カンボジアのプノンペンに本社を置く金融複合企業です。そのネットワークは東南アジア全域に広がり、合法・非合法の両市場にサービスを提供しています。ブロックチェーン分析によると、2021年以降、Huione関連のインフラには960億ドル(約14兆円)相当の暗号資産が流入しています。

Huioneは、国際ロマンス詐欺(通称:豚の屠殺詐欺)、大規模詐欺ネットワーク、さらには北朝鮮関連の暗号資産窃盗事件など、数々のサイバー犯罪において中心的な金融ハブとして機能してきました。その中核をなすのが、以下の2つの関連サービスです。

  • Huione Guarantee:
    買い手と売り手の取引を仲介するエスクロー(第三者預託)サービス。サイバー犯罪者は、詐欺で得た収益の洗浄などにこれを利用してきました。
  • Huione Pay:
    デジタル決済および暗号資産取引プラットフォーム。本人確認(KYC)が非常に緩いことで知られ、違法行為者の温床となっています。

競合「Xinbi Guarantee」とは何か?

Xinbi Guarantee(シンビ・ギャランティ)もTelegramを拠点とするエスクローサービスで、ミャンマー、タイ、ラオスにまたがる「黄金の三角地帯」を本拠地としている可能性が高いと見られています。Huioneが打撃を受けたことで、Xinbiは急速に勢力を拡大しました。最近では、フィリピンの有名リゾートにちなんだ「Solaire Casino」との提携を発表し、カジノを利用した資金洗浄ルートへの関与を示唆しています。

Telegram追放後の激変

Telegramによるチャンネル追放後、各プラットフォームの活動には劇的な変化が見られました。

TRMのグラフ可視化ツールは、Huione PayとHuione Guarantee双方のベンダーが、違法活動のためにTudouとXinbiの両サービスを利用している状況を示しています。これは、保証サービス業界がいかに相互接続されているかを裏付けるものです。

Huione Guarantee

ピーク時には1日あたり6,000万ドルの入金がありましたが、追放後はその半分の3,000万ドルレベルで安定。活動規模は縮小したものの、完全には停止していません。

Xinbi Guarantee

Huioneとは対照的に、すぐにTelegramに復帰。これにより1日あたりの資金流入額が約90%急増し、市場の混乱に乗じて大きな成功を収めました。

Huione Pay

前述の通り、Tudouへ移行したベンダーたちの資金の受け皿として機能し続け、取引量が50%増加しました。

Tudou Guarantee

Huioneからの利用者が殺到したことで、取引量が約70倍に急増。Huione自身がこの移行を推奨していることを示唆する情報もあります。

HuioneはTudouと合併したのか?

オンチェーン分析とOSINT分析から、Huione GuaranteeがTudouと実質的に融合し、Tudouを隠れ蓑にして運営を続けている可能性が極めて高いと考えられます。Huioneは新しいTelegram IDを取得しつつも、以前のブランド名を一部使用し続けるなど、顧客基盤を維持しようと躍起になっています。表向きは一部のVIP顧客のみを自社で直接対応し、他のベンダーにはTudouへの移行を指示することで、リスクを分散し、法執行機関の監視を逃れようとしているのです。

Huione GuaranteeのTelegramボットは、引き続き「Haowang」という名称を使用している。

Huioneのビジネスモデル:保証金ウォレットの仕組み

Huioneは、ベンダーがサービスを利用する条件として、担保となる暗号資産を専用ウォレットに預託させていました。この「保証金」の額は、提供されるサービスの違法性やリスクの高さに応じて階層化されています。

サイバー犯罪関連サービス(フィッシングキットなど): 数千USDT(数千ドル相当)

大規模な資金洗浄サービス: 2万~7万USDT(約300万~1,000万円)


この階層構造は、各サービスに伴うリスクと想定される取引量を反映しており、Huioneの内部経済の実態と、彼らが違法サービスにどのような値付けをしているかを浮き彫りにしています。

TRMのグラフ可視化ツールが示す資金の流れ。Huione Payの出金用ホットウォレット(上)から、
Huione Guaranteeの2種類の保証金預託ウォレットへ資金が送金されている。


結論:彼らは消滅したのではない。ただ進化したのだ

Telegramによる追放やFinCENによる指定にもかかわらず、Huione Groupはその強固なネットワークを通じて活動を継続しています。彼らはTudouを一時的なプラットフォームとして利用し、世間の注目が薄れるのを待って、いずれ本格的な活動を再開するつもりでしょう。

この動きは、現代の違法組織が用いる典型的な戦略です。インフラを分散させ、関連組織間で活動の拠点を移し、別ブランドで再登場することで監視の目を逃れるのです。Huione Groupは閉鎖されたのではありません。彼らは適応し、リスクを分散させ、この混乱を乗り切るために進化したのです。

一方で、Xinbi Guaranteeも急速な復活と拡大を見せており、この非合法な金融エコシステムは、今後も形を変えながら生き残り続けると考えられます。法執行機関や規制当局は、この進化し続ける脅威を追跡し、その動向を監視し続けなければなりません。


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